序文
「観測」次第で形を得るということは、極論を申し上げますと、皆さんがこれは百合だと思ったものは百合であるということです。 百合を強調しているわけでもない作品の中にふっと差し込まれた人間関係の描写に「これ、百合だ!」と思った方は多いでしょう。 また、公式が百合をうたっているわけでもないアニメ作品が、たくさんの百合のファンアートを生むことも珍しくありません。 コロナ禍という未曽有の災害からはじまった2020年代ですが、いろいろな作品に百合を見出す意識は間違いなくそれまで以上に浸透・拡散していると思います。
ただ、意識が浸透することと、百合のシーンが活性化することは微妙に違います。近年、百合の要素を含む大ヒットアニメ作品は年に一本は登場しています。 ですが、百合を見出す視聴者が多数いるアニメでも、公式には百合とは言っていないものが珍しくありません。 百合を見出す意識が浸透したがゆえに、百合を作り手側が強調する意義が薄くなっている面があるように思います。 私の本業は小説家・漫画原作者ですが、小説でも漫画でもまだまだ百合を堂々と前面に押し出すことは難しいと感じています。 その中で、今年の「百合展」に参加されている作品はいずれも自分から、はっきりと百合作品であるということを宣言されているわけで、 その強い気持ちと覚悟に賞讃を覚えずにはいられません。
会場にいらっしゃっている皆さんはどうか心から、クリエイターの皆さんの愛が詰まった百合作品の展示を楽しんでいただければと思います。 もしかすると家族や友人の方に隠してご来場された方もいるかと思いますが、ここにいる方であなたを否定する人は絶対にいません。 どうか、この会場だけでも自分の「好き」に率直に、正直に、楽しくすごしていただければ幸いです。コロナ禍のせいで本当に久しぶりの会場を使っての開催です。 じっくりと好みの作品に向き合ってお過ごしください。私も一百合ファンとして存分に楽しみたいと思います。
森田季節
過去の百合展
協賛
「百合展2023」メインビジュアル © フライ/©︎ 羊肉るとん